光を失い生きる気力を失ってしまった妻に、20年かけて贈った庭一面の花畑

これは真実の愛の物語です。

宮崎県児湯郡新富町には、毎年春になると新聞やテレビで紹介される一軒の個人宅があります。新富町の小さな観光スポットとなっているのは、黒木邸です。4月になれば、この家のある庭一面に咲き誇るシバザクラを目当てに県内外から多くの見物客が訪れます。庭の維持管理はこの家の主人の黒木敏幸さん(87)が今でも1人で行なっています。一方、笑顔が素敵な妻の靖子さん(77)は、この庭のマスコット的存在です。

しかし靖子さんは、実は色鮮やかな濃いピンクが一面に広がる光景を一度も見たことがないのです。その理由とシバザクラの庭の成り立ちの物語を知り、日本中が涙しました。

黒木夫妻は、昭和31年(1956年)にお見合い結婚。畑作での生活は収入が少なく苦しかったものの、明るくおしゃべり好きな靖子さんのおかげで小さな家庭には笑顔が絶えなかったといいます。やがて3人の子供に恵まれ、乳製品の需要が高まった時代の流れと共に畑作から酪農へと切り替えました。家族で営む酪農はかなりの重労働です。朝2時に起きての掃除や餌やり、乳搾りに飼料づくり、365日休みはありませんでした。旅行に行く暇などない働き詰めの生活は20年続きましたが、互いを支え合った夫婦はやがて乳牛60頭を養うまでになり、子供たちも立派に成長して巣立っていきました。

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結婚30年目を迎え、夫婦の時間が増えた黒木夫妻の夢は「日本一周旅行」でした。いつか仕事をやめたら全国各地の名所を回ろうと、何年も前から2人でこつこつとお金を積み立てていたのです。これは長年愚痴ひとつこぼさず働いてきてくれた妻に対する、夫の約束でもありました。

そんな矢先、予想もしていなかった悲劇が夫婦を襲います。

ある日突然、靖子さんは目の不調を訴えたのです。眼科へ行ったものの原因は不明。しかし、わずか1週間後、靖子さんの目は完全に見えなくなってしまったのです。緊急入院した宮城市内の病院で失明の原因は糖尿病の合併症との診断を受けました。当時まだ52歳、それまで活発な毎日を送ってきた靖子さんにとって失明のショックは大きく、以来、口数も笑顔を減ってしまいます。妻の失明は同時に、夫婦2人で築いてきた酪農を手放さなければならないことを意味していました。乳牛60頭を敏幸さん1人で世話するのは無理でした。働き詰めで体を顧みてやる余裕もなかった妻の失明、酪農の閉鎖、そして旅行の約束も果たせなくなってしまった敏幸さんは不甲斐ない気持ちでいっぱいだったと言います。

敏幸さんは妻を出来る限り元気づけようとしましたが、退院した後はすっかり家に閉じこもるようになってしまった靖子さんは生きる気力まで失ってしまったような状態で、暗闇の中、落ち込み、退屈そうに毎日を過ごしていました。敏幸さんは励まし方が分からずに、悩みました。

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靖子さんの退院から翌年の春、敏幸さんは庭のみかんの土止めのために植えたシバザクラに人が集まっていることに気がつきました。当時はまだ珍しかったシバザクラの鮮やかな色に惹かれて人が家の前で立ち止まるようになっていたのです。その様子を見てあるアイディアを思いついた敏幸さんは、庭作りに本格的に取り組むことを決心します。

人を呼ぶシバザクラを、もっと増やそうと考えたのです。

裏山を切り開き、地面を盛り上げ、土台を整えるだけでも2年かかりました。夏には雑草を抜き、秋は広大な敷地を肥料で覆います。こうして、たった一人で少しずつ地道にシバザクラを増やしていきました。

敏幸さんには目標がありました。

妻を外に連れ出せないのであれば、人を家に呼べばいい。庭をシバザクラで一杯にして靖子さんの話し相手を沢山集めるために、敏幸さんは毎日庭仕事に励みました。

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それから10年が経ち、「花の絨毯」が見れるようになった黒木邸は...

噂を聞きつけた人々で賑わうようになっていました。

そこには見物客と楽しそうに話をする靖子さんの姿もありました。敏幸さんがたった1人で作り上げた庭のおかげで、靖子さんは再び笑顔を取り戻していたのです。

それから更に十数年、現在シバザクラは約600坪の庭一面に広がっています。毎年季節になると、ピンクの花のじゅうたんを一目見ようと県内外から多くの観光客が訪れ、週末にはその数が3000〜5000人にもなるんだとか。花畑には敏幸さんがつくった遊歩道や手すり、ベンチなどが設置され、靖子さんも毎朝ここを散歩しています。今でも毎日欠かさず庭に出るという敏幸さん。今の生き甲斐は人が花を見て喜んでくれることだそうです。

この広い敷地をたった1人で!

こちらはドローンで上空から黒木邸を撮影した映像です。

一輪、一輪に、愛がこめられたシバザクラ。花の美しさと、そこに映し出される夫婦愛に感動せずにはいれません。靖子さんは幸せですね。ちょっと羨ましくなってしまいました。

来年の春、宮崎にお出かけの際には児湯郡新富町の黒木邸へ立ち寄り、靖子さんと話に花を咲かしてみませんか?

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