爪・毛・歯は人間、でもこれは人間ではない。正体を知ったら、凝視せずにはいられなくなる。

日本人彫刻家のハナヌマ・マサキチによって1885年(明治18年)に制作されたこちらの作品。彼自身の姿を模して作られた木製の生き人形には、シワのひとつひとつから浮き上がった血管一本一本までが精巧に彫り込まれており、さらに驚くべきことに髪の毛や体毛、爪に至るまで全てハナヌマ本人のものが埋め込まれています。聞いただけで鳥肌が立ってしまいますが、彼はなぜこのような作品を作ったのでしょうか?

生き人形を専門とする彫刻家であった彼の生涯は (ハナヌマの名前の漢字表記を含め)大半が謎に包まれています。ある日彼は、当時不治の病とされていた結核を患っていることを知ります。死期が近いことを悟ったハナヌマは、当時好意を抱いていた女性に「死んでも自分のことを忘れないで欲しい」という想いから、彼女に自分に生き写しの像をプレゼントすることに…。

合わせ鏡を使って背中の形状に至るまで精巧に作り上げただけでなく、身体中の毛穴の位置を確かめ木像の同じ位置に小さい穴を掘り、その穴に自らの体からむしりとった体毛や頭髪を埋め込むほどの力の入れようでした。

さらには自分の歯も全て抜いて、像にはめ込んだそう。ここまでくるとさすがに狂気の沙汰としか思えませんが、それほどハナヌマは彼女のことを愛していたということなのでしょう...。

なんとこの生き人形には釘は一本も使われておらず、総数2,000~5,000ともいわれる膨大な数の木製のパーツを組み合わせてできており、そのつなぎ目は虫眼鏡でも確認できないほど緻密に組み合わされています。表面にはハナヌマの肌のトーンを忠実に再現するため漆塗りを基調に塗装が施されており、肌がギラギラと黒光りする様子からは、彼がいまにも動き出しそうな印象さえ受けます。

ハナヌマは作品の完成後に自宅で小さな展覧会を催したそうで、その際生き人形の隣に彼が立って同じポーズをとると、展覧会に訪れた人々は人形と彼の見分けがつかなったそうです。

ちなみにこの生き人形を贈られた女性は恐怖のあまり失踪し、ハナヌマが彼女に会うことは2度とありませんでした。さらに奇しくもあと残り数ヶ月の命と言われていたハナヌマは結局その後10年も生き、1895年の冬に貧困の末亡くなりました。晩年、ハナヌマは自ら歯を全て抜いてしまったことを悔やんだとか…。

ハナヌマの像は彼の死後アメリカを転々とした後、1934年に米国人珍品収集家のロバート・リプリーによって$10で落札され、現在はオランダ・アムステルダムにある「リプリーズ・ビリーブ・イット・オア・ノット!ビックリ博物館」で展示されています。ハナヌマがその命を込めて作り上げた作品が「珍品」として展示されていることに違和感を覚えざるを得ませんが、自身の作品が沢山の人の目に触れることは、芸術家の彼にとって本望なのかもしれません。

類稀なる技巧で自分と一寸違わぬ姿の生き人形を作り上げた日本人芸術家ハナヌマ・マサキチ。人間の歯や爪、体毛が使われているという点ではやはり不気味ですが、その作品の素晴らしい完成度には、同じ日本人として誇りさえ感じます。

プレビュー画像: ©️facebook.com/Dead Fred's Genealogy Photo Archive

出典

プレビュー画像: ©️facebook.com/Dead Fred’s Genealogy Photo Archive

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