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ストーリー

【背の高い男を連れて来い!】身長2メートル級の大男ばかり狙い誘拐を企てるドイツの王 その真の目的を知って驚き呆れた

米海軍特殊部隊ネイビーシールズや英海兵特殊舟艇部隊SBSのように、世界にはその国の威信をかけた名だたる特殊部隊が存在します。

Navy

他の部隊が出動をためらうような危険地域に出向き、作戦任務を遂行する彼らは言わば軍隊組織におけるエリートの中のエリート。厳しい訓練を乗り越えた精鋭部隊なのです。

こうした特殊部隊の歴史は今に始まったことではありません。かつて地球上の陸地の25%を支配したモンゴル帝国の「騎馬隊」や、オスマン帝国時代にその名を轟かせた親衛隊「イエニチェリ」など、勇猛果敢な戦いぶりで周辺諸国を脅かした数々の精鋭部隊が歴史に名を残しています。

Janissaries

いつの世も国を治める統治者が求めるものは強力な軍隊。特に、隣国と陸地続きのトルコやヨーロッパ諸国では領土争いだけでなく、国家存続のためにも軍事力の強化が重要課題でした。

Partitions of Poland

ヨーロッパ諸国が領土争いに牽制し合い火花を散らしていた18世紀初頭、現在のベルリン・ポツダムに拠点を置くプロイセン王国でも軍事力の強化が大きな課題の一つでした。1713年にプロイセン王として即位したフリードリヒ・ヴィルヘルム1世は早速、軍事改革に乗り出します。

Friedrich Wilhelm I.

隣国の大国ハプスブルク帝国やフランスと互角に戦える軍事力の強化が緊急課題。「一連の軍事改革だけでは不十分だ、周辺国家も一目置くような強い特別な軍隊を作るには…そうだ、デカくて力が強い兵士を集めて軍隊を作ればいいんだ!」

当時の王公族には珍しく学問や芸術を極端に嫌い、後世の評価も「粗暴で無教養」と散々な言われようのフリードリヒ・ヴィルヘルム1世。現代の一般人ならば脳内妄想で留めておきそうな案ですが…さすがは実権を持つ一国の王、早速国中にお触れを出します。

「背の高い男、大募集!差し出した者には褒美を、名乗り出た者には高給を与える」

徴兵官による背の高い男探しが行われ、超高身長の男性を差し出した領主や男性の家族には褒美が与えられました。高額給与待遇の好条件でも本人が志願したがらない場合、誘拐同然にして連れて行ったそうです。しかも、王自身が誘拐という強硬策で連れて来るよう徴兵官に指事、人道的観点から誘拐をためらう徴兵官を叱責していたとか。今なら大問題です。

Potsdam Giants1

かくして、国内にとどまらず、ヨーロッパ全土から誘拐も含めて集められた超背の高い男たちの集団からなる「プロイセン第6歩兵連隊」別名ポツダム巨人連隊が誕生したのでした。

Potsdam Giants2

身長210センチ超えは当たり前、中には250センチ近い兵士もいたそうです。巨人連隊の兵士は他の兵士に比べ格段に高待遇を受け、特に背が高い兵士には土地付きの家が贈られました。さらには王は兵士に背の高い女性との結婚を勧め、次世代の巨人連隊を担う超高身長の血筋を後世に残そうとまでしました。

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大男たちの一糸乱れぬ行進を見るのが王はお気に入りで、各国の外交官を招いてはしばしば見物させたそうです。巨人連隊の兵士補充のため超高身長男性ばかりを集める王の奇癖は国際的にも有名となり、各国の大使は外交の贈り物として宝飾品の代わりに長身の兵士を贈り、王を大いに喜ばせました。ちなみに、大使が長身兵士を連れてこないと… 王は露骨に不満をブー垂れたそうです。なんて分かりやすい。

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もちろん、一連の軍事改革にもそれなりに力を注いではいましたが、この巨人連隊に関してはその戦闘能力を疑問視する声もちらほら。編成と維持に莫大な費用がかかる巨人連隊はあまりにもコストパフォーマンスの悪い国家財政のお荷物的存在になっていきました。

王の死後、息子のフリードリヒ2世が即位すると、金食い虫的存在となっていた巨人連隊は解隊、常時2500人から3200人いた巨人連隊兵たちは残留希望者のみを1個隊に集めた第6近衛擲弾兵大隊に再整備されました。

Friedrich II.1

武骨で無類の軍事好き。「兵隊王」とあだ名され、言わばミリオタであったフリードリヒ・ヴィルヘルム1世。王の軍事への情熱と飽くなき探求心が具現化したかのような巨人連隊は、彼1代で消滅してしまいました。しかしその他の軍事改革の効果は目覚ましく、ヨーロッパ随一の軍事国家としての基礎を築き上げることに成功。王座を継いだ息子のフリードリヒ2世は父王から受け継いだ常備軍をさらに増員し、プロイセンは近隣のハプスブルク帝国やフランスと肩を並べる強大な大国へと成長します。

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一国の王の趣味が暴走した結果生まれたポツダム巨人連隊。「とにかく背が高ければ強い兵士になる」という無鉄砲な発想を純粋に追及した王の人柄と、王に振り回された宮廷・軍事関係者のドラマが目に浮かぶようです。